2013年3月1日金曜日

狸狐の仕業<白金>

江戸末期の白金辺
江戸の頃、白銀(現在の港区白金辺)に、大御番七番組の石川源之丞という武士が住んでいました。源之丞には一人の娘がいましたが、その娘が13歳のとき、ふと庭に出てそのまま行方がわからなくなってしまったそうです。源之丞は、家内の者を集めて屋敷中隈なく捜しましたが、見つけることが出来なかったそうです。

ところがその翌日、不思議なことに神田木挽町からお嬢様をお預かりしているとの知らせが届きます。驚いた源之丞は早速家来の者を迎えにやり、娘を屋敷につれて帰りました。娘が落ち着いたところで事情を尋ねると、

「見知らぬ人に連れられて、面白い所を方々見物してきました。」

と答えたそうです。
その答えを不信に思った源之丞は、木挽町の者に見つかった時の様子を尋ねてみると、
「どうした訳か芝居茶屋の庭に一人でいたので、色々と訳をたずねたが、言葉も定かでないので、いったん休ませ、正気に戻ってから尋ねると、こちらのご息女だと言うのでお連れした。」
との事だったそうです。
この事件を町の者たちは、狐か狸の仕業であろうと囁きあったといいます。江戸時代には方々でこのような不思議な話が残されていますが、今回の話は江戸時代の不思議話や幽霊話などを集めた「梅翁随筆」に収められています。